研究内容


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有機薄膜太陽電池の光活性層による光電流生成機構の解明

背景
  近年、有機薄膜太陽電池として、バルクヘテロジャンクション構造(ドナー分子とアクセプター分子がドメインを形成し混ざり合った構造)をもつものが注目されています(図1)。 特にドナー分子では共役系高分子のP3HT(poly(3-hexylthiophene))、アクセプター分子ではフラーレン誘導体のPCBM([6,6]-phenyl-C61-butyric acid methyl ester)を用いたブレンド膜が高い光電変換効率を与えることで注目されています。また、光照射による光電変換の経緯については、まずドナー層の光吸収により励起子が生成します。励起子は界面まで拡散し、そこで電荷分離状態を形成します。生成した正孔と電子を電極に収集することで電流を取り出すことができます。 特に、光励起初期過程では電荷同士がクーロン力によって束縛された電荷分離状態が生成します。 さらに、電流生成が始まるためには束縛された電荷分離状態から電荷解離する必要があります。 しかし、この束縛された電荷分離状態を直接観測した例はほとんどありません。

図1.Bulk heterojunction photoactive layer in the organic solar cells (P3HT/PCBM blend film)

成果
  有機薄膜太陽電池のヘテロジャンクション型ブレンド膜試料における光電変換初期過程で生成する光電荷分離状態の立体配置を初めて決定した。不対電子軌道の相対的な配置・配向から、ポリチオフェン励起子からの電子注入後に起こる電荷解離(光電流生成)の初期段階であることが明らかとなった。このデータから反応初期段階において有機ポリマーの電気伝導性が重要な役割を果たすこと、さらに有機半導体分子のヘキシル基側鎖の運動性によって生まれる不均一性が電荷解離を促進するためのエントロピー増大効果を生み出していることを示唆している。

図2. 有機薄膜太陽電池のバルクへテロジャンクション型光活性層を形成するa) regioregular P3HT-PCBMとb) regiorandom P3HT-PCBMブレンド膜個体試料の光電変換初期過程で生成した電荷分離状態の不対電子軌道

現在と今後の展開
  有機薄膜太陽電池のヘテロジャンクション型ブレンド膜においては、効率よく光電変換を行う仕組みがまだ解明されていない。今後も温度変化など様々な測定を行い初期電荷分離・電気伝導機構の詳細を明らかにしていく予定である。さらに、作成された薄膜太陽電池を用いてデバイス動作時の過渡種の観測を行い、太陽電池の分子機能について性能評価を行う予定である。


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